Mobile Tech Lab vol.023|石川温さんの取材テクニック

Mobile Tech Lab vol.023|石川温さんの取材テクニック

2025年9月7日はラジオ放送がお休みだったためYouTubeでのみ公開された回です。

前回ラジオ放送がお休みだったのが2025年6月1日で、この回ではそれまでの放送の振り返りをしました。

第23回となる今回は、取材の裏側の話を掘り下げていただきました。

Mobile Tech Lab vol.018|モバイル業界の取材裏話

2025年8月3日にBAYFM78で放送された、Mobile Tech Labの…
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オープニング

6月ぶりのYouTube特別版ですけれども、YouTube撮影でのスタジオの雰囲気、普段とちょっと違ってて面白いですよね。

ラジオの時はある程度尺を意識しながら時計をチラチラ見ながら。もうちょっと伸ばした方がいいのかなとかっていうのを考えながら喋ってたりするんですけど、YouTubeはそれがないので、自由にしゃべろうかなっていう感じです。

公共の電波じゃないってだけでも緊張感がほぐれる。

公共といえば公共ですけども。

公共か。

でも私もこれを振ったら1分石川さん喋ってくれるかなと思いながら聞いてる時があって。「あれ?短かったかな?どうするか?」っていうキャッチボールがありますよね。

取材の裏側を掘り下げる

さて、今日のテーマは北さんお願いします。

今日はせっかくYouTubeなので、これまでの放送で話しきれなかったことをお聞きしていきたいです。公共の電波では言いづらいようなお話も含めて、どんどん裏側も聞いていきたいなと思っております。

私はやっぱり取材の裏側のお話、以前に石川さんにしていただきましたけれども、ここまで言っていいんだって思いながら聞いたりしてたんですが、最近メディアの発表会が割とテレビで放送されるみたいなシーンが今年はありましたね、たくさん。

記者会見がライブでそのまま流れてるという状況があって、モバイル業界もね、各社発表会を流すことになってますし。あと芸能系では謝罪会見が長時間流れてるってのがありました。記者と登壇者との間の質疑応答がかなりヒートアップしたことが多かったなっていう印象があります。

皆さんの頭の中にあれかな?っていうのがなんとなく浮かんでると思うんですけれども。

あれが毎回毎回色々な記者会見で行われてるかというとそうではないというところをご理解いただきたいです。

あくまでメディアと企業・発表側っていうのは対等な立場だったりするわけですよね。メディアが世間を背負って偉いものでも全然ないですし。

むしろちゃんと一般の人に分かりやすく伝えるために疑問点を教えてもらう。登壇する側はそこに答えるために噛み砕いて説明するとか、面白おかしく喋ってくれるとかっていうのがあるので、基本的には緊張感はあれど、和やかな雰囲気で毎回毎回記者会見はやってますよという感じですね。

私はやっぱり先輩方の質問回しの技みたいなものを拝見してるので、結局質問って公共の場でしているというか、みんなの前でしているので、その人がした質問は全員の記事に載る可能性があるわけなんですよね。そうなるとどの順番で誰が何を聞くかみたいなところ結構重要ですよね。

自分が新人の時は「本当に聞きたい質問は質疑応答でするな」って言われたんですよ。結局それって聞いたことはみんなのものになっちゃうので。

独占できない。

本当に独占的に扱いたい話は終わった後に関係者を捕まえてコソッと聞けって言われたんですけど、なかなかもうコソッと聞ける時間もないので、まぁそうじゃないなっていう感じになっています。

自分があくまで個人的に記者会見で心がけているのは、いかにケータイ Watchで速報で挙げてもらえるような質問をするか。

速報記事は自分でケータイ Watchに書いてはないんですけど、でも例えば今で言ったら各社の社長って結構リップサービスがいい感じで、いい感じのトスを上げるとバシっとスパイクを打ってくれるみたいな感じだったりもするので、いかに面白い答えをしてくれるかっていうのをフル運転しているという感じだったりもします。

あれは皆さん速報になるなっていう気持ちをちゃんと持った上で、石川さんの質問を待ってるんじゃないかなって。

だから他の人は自分の聞きたい事を聞くとか、その時の話題性あるものを聞くとかっていう感じですけど、自分としてはそれを心がけているので、いきなりそういった質問って投げても答えてくれないんですよ。

なので、例えば決算会見であれば、まずは日経とかその辺の記者に質問をさせて会社の決算の数字的な概要的な質問をさせておいて、何人か泳がせた後に手を挙げて面白い答えを引き出そうかなっていつも考えてます。

オチではないですけど、どの順番で行くかっていうのは結構大事なところで。

弓月さん司会やったりする時はそういうこと考えます?

そうですね、特に司会の場合だと誰に当てようかっていうのも多分大事ですし、自分が司会者側だからこそ「あっ、今当たるつもりなかったのに1番目で当たってしまったので、ここはちょっと質問を変えよう」みたいな気持ちになって。

まず最初に全体的なことを言って、細かいところは多分他の先輩方が聞いてくれるだろうから、私は序のところにしておこうっていうのがあります。

そう、だから空気を読んでほしい。みんな空気を読んでほしい。っていうかチームプレーじゃないですか、質疑応答って。

本当にそうなんですよ。

だから一番最初の質問は、全体的な話を聞けよっていう。関係ない質問はするなよとか。一番最後に当たったらまとまるような質問をしろよとかっていうのは、個人的にはめちゃ思ってるんですよ。

最後に1問だけって言われて2問言うなとか。

そうそうそうそう。あとメディアの人はね結構質問がちゃんとしてるんですよ。けど、決算会見とかってメディアの質問時間とアナリストの質問の時間があるんだけど、アナリストの質問めっちゃ下手くそで。自分が言いたいことをバーーーッて言って。

気持ちを伝えたい。

自分の見方は正しいのかっていうのを伝えて。で、最後ちょっと質問するっていう感じなので、質問の仕方っていうのも色々あるんだなっていう感じしますね。

ディベートになるというか。「私はこう思うのですが」っていうところが尺が長くなってしまって、答える側が「質問なんでしたっけ?」っていう。

着地地点が見えてこないっていう。

1個の記者会見15分の中にそういうドラマがありますよね、質疑応答。

なので、ぜひともいろんな企業の発表会を見て欲しいなっていう。

ライブストリーミングみたいなのがもっと増えてくれたらいいですよね。

私は自分の行かない発表会とかだと後ろからカメラ狙ってたりするじゃないですか。大体皆さんがどこに座ってるか概ね分かるので、どうやって質問するんだろうと思いながら見ています。

結構ね、髪型で分かる人が居たりもするので。髪の色とかで分かったり。

石川さんにそっくりな後ろ姿の方が居たりとか。

ドッペルゲンガーがいるとかね。

石川さんの取材テクニック

発表会で記憶にあるのが、キャリアさんが糾弾されるようなシーンだった時に助け舟を出しながら必要な情報を石川さんが取っていくっていう技を見て「おー!」と。

私、当時どちらかというと、攻められる側と言ったらおかしいですけど、トラブルが起きて発表する側にいたので。

同業者として。

そうなんです、同業者で。胃がキュッてなるんですよ。2日間完全に電話が止まりましたみたいな。あれは本当にもう大変やろなっていう。

他社だったとしても同情するようなしんどい場面で、ちょっと心ない質問をする方々もいらっしゃる中で、石川さんがすごい優しさに溢れた紳士的な質問をしてくれて、問題の原因は何かみたいなところを丁寧に掘り下げてくださっている会見を見て、あの時本当に石川さんの会見の質問すごいなって。どの会社かは言わないんですけど。

でもあの時も結局「私はこういう取材をしました。この時はこういう内容でした。それに伴って今回はどうですか?」って言う形で、結局その場にいたその情報を知らない人たちにも一回石川さんの取材してることをシェアしてもらっていたので、すごく助かった人もいると思うんですよね。

あの会見って日曜の朝やってたんですよ。金曜の夜とか土曜の早朝ぐらいからネットワーク止まって、なんでそんなネットワーク止まってるのか企業側もよく分かってない、原因が特定できてない中で、けど上の方から記者会見やれって言われて仕方なくやってるっていう中で行われた会見なので。

要は、我々みたいな専門媒体の記者もいれば、テレビの社会部とか通信に対して全然詳しくない記者も来てるわけですよ。

なので、「これに対しての補償はいくら出すんだ」とかっていう、今言えるわけないじゃんみたいな質問も飛び交ったっていう状況でしたね。

ただ、通信の記者会見だったのでそんな長時間にもならずにまとまってましたけど、やっぱり芸能系は酷いなっていうかね。

どうしてもね、自分のところでコメントが取りたくて何度も同じことを繰り返してしまったりっていうのはあったりするんですよね。

でも本当にあの石川さんの質問の時は、同世代のライターとかで「今の見た?今の石川さんのコメント。聞いた?聞いた?」みたいな、みんなでメッセンジャーやり取りしてました。

通信障害じゃなかったんですけど、とある経営があまり芳しくない会社の会見で、そこのトップの人に
石川さんがインタビューをサシでされていて。

その経営が良くなかった会社は、どちらかというと叩かれることが多かったんです。潰れるだ、いつ黒字になってみたいな話をホリエモンみたいな方がやられてて、結構叩いてもいいみたいな風潮があった中で、石川さんのインタビューはすごい丁寧にやられてて。通信業界の人間として嬉しかったなっていうのはありました。

いや、それは本人を目の前にしたら叩けないでしょ。

絶大な信頼をされてましたよね、トップの方からは。

私も書き手というか聞くところにたまたま自分がいるだけであって、世間を代表するってことではなく
たまたまハブになってるだけの存在だということを忘れないようにしないといけないなと思います。

メディアということで情報が先に手に入るとか、優遇されるシーンもあるので、そこにおごってはいけないなっていうのはすごく感じますね。

いいこと言いますね。

どちらかというとメディアの取材を受ける教育とか受けてきた側の人間ではあるんですけど、余計なことを言わないように広報とかが横で目を光らせているとかっていうのがよくあるんですね。

そういう時に、どういう風に特ダネみたいなものを引き出すかとか。ブロックされてるところから一つでも面白いネタを引き出すかみたいなのって、何か工夫されてることってありますか?

相手に言わすように自分でいっぱい喋るとか、っていうのは確かに手法としてはありますよね。

あとはドアを出るまでレコーダーを止めないみたいな。「インタビュー終わりました」の後に、記事にするかどうかは別として、ちょっとラフな雰囲気になった時だからこそ出てくる本音ってありますよね。

取材終わってから「ありがとうございました」って言って、エレベーターまでの送られる間の時間に立ち話で聞くっていうのはあるかもしれないですね。

もちろん書いていいかどうかの確認をしたりしますけれども、そこで「あ、言ってなかったな」とか。
ちょっと本音だったりとか。体面というよりはちょっと横に並んだ時に出てくる言葉ってありますよね。

その人が言ったっていう書き方じゃなくて、単なる事実確認として「これは言っても間違いじゃないよね」という聞き方もできるので、それでいくらでも書きようはあるし。

よくね、企業によっては「背景情報ですから」って言って間違いを書かないように「我々が言ったとは言わない体で書いてくださいね」っていうのもあったりもするので。

地の文で書くってやつですね。でもなかなかそういうところって一般の方には見えないところではあるので、メディアっていう風に一括りにされちゃうとちょっと違うなと思う時がありますね。

いや、そうですよ。今オールドメディアとかって言われてたりもする メディアもあったりするじゃないですか。ラジオも典型的ですけど。

っていうところがある中で、「いや、そうじゃないんだよ」っていうところはね。もっと分かってほしいかなっていう気がしますよね。

多分相手を怒らせたり悲しませることによって本音を引き出すっていう手法も古くからあるのかもしれませんが、どちらも企業にとってこれからの先の未来がいいようになるように。それが犯罪とかでなければ、いいようになるというところを一緒に支えてるっていうのが、テックの取材される方の心得なのかなという気がしますね。

怒らせて本音を引き出すパターンってのはなかなかもう通用しなくなってるというか。むしろ正直にしゃべってもらう。メディアも正直に聞くっていうのが今求められているというか。

記者会見がライブ配信されると全て可視化されるというか。それこそ目の動きとかもね、分かってしまったりもしますし。

で、文春砲が飛んでね。「それって嘘ですよ」って否定しても、第2第3の文春砲も飛ぶので。結果それでね、やっぱりそれって本当だったよねってことは分かったりもするので、みんな正直にやるっていうのが今のメディアとして 求められていることなんじゃないですかね。

そうですね。すごく盛った書き方をしたら後でバレますし、いいようにグラフを見せてみたりとかしても後からそれは糾弾されるので、いかに素直に気持ちを言うかっていうところですよね。

それが求められますよ。

素直な気持ちが求められるっていうまとめもなかなかすごいですけど、でも多分日本人ってXに代表されるようなテキストでのやり取りっていうのが非常に発達している国というかそういうところがあるので、記事になってるものに対しての言いたいこととかたくさん出てくるんでしょうね。

だから本当に昔のメディアって言いっぱなしで終わってたけど、今はそうではないので。反響がめっちゃあるので、炎上とかも含めてね。そこは大切しなきゃいけないのかなって気がしますよね。

北真也が情報発信で気をつけてきたこと

北さんもブログとかポッドキャストとかっていう形でずっと発信されてきたと思いますけど、気をつけてることどんなことがありますか?

他人の悪口は書かない。その方がもしかしたらPVが伸びるかもしれないですけど、誰かを傷つけたら自分の方に返ってくるので、それだけをとにかくやらないように。それは企業であれ人であれやらないようにしてます。

どうしても数字っていう悪魔がね。こんなこと言っていいのかどうかわかりませんけれども、自分がこういう書き方をしたら数字は取れるかもしれないけど、自分の良心がみたいなところありますよね。

ただ、やっぱりね。見出しのつけ方をちょっと凝ってみたいななんてのはあったりするので。

商業メディアだとそうも言ってられないところはありますよね。

いかに記事を読んでもらうかっていうのがやっぱり言っても大事だったりするので。

意外とでもライターさんとかジャーナリストの方って、タイトルは自分で付けてない方も多いですからね。編集者さんがつけて後からびっくりするってこともありますよね。

ありますね。確認しないで「OKです」と言ったらびっくりするパターンもありますからね。

後からニュースとかで見て「誰の記事かな?」と思ったら自分の記事だったってありますよね。「あれ?私だ。」って。

結構煽り気味のタイトルを付けたらちょっと荒れません?記事の内容と全然違うじゃんみたいな。

まぁそれはやっぱり多少ありますよね。それで言うとね、そのタイトルを付けてくれる編集者さんのスキルが求められている。

コントロールをしてもらいたいですよね。

記者さんがNVIDIAのことを知ってたとしても「謎の」っていう言い方をする、とかっていうところですよね。あえて日本の全体の普通の人のことを考えるとこの方がみんな読んでくれるし、ひいては知ってくれるんじゃないかっていう誘導ですよね。

新聞社ってね、担当の記者がいて。記者の方は分かってるんだけど、その上のデスクとか、あと校閲とかいるとどうしても変なタイトルになっちゃうっていうのはあるかもしれないですね。

それは石川さんが自分がいたことがあるからこそわかることですか?

何となく一般論としてね。

いやーでも本当に、ラジオよりもYouTubeの方が割と言いたい放題な感じになる傾向がありますが、
大丈夫でしょうか?話していいことだったのかなんて思いながら。

石川さんがいつもよりちょっとテンション高めだったかなっていう。

モバイル関連の話っていうのはやっぱり正確性が求められるので、常にこれで合ってんだろうかとね。間違わないような言い回しにするとかめっちゃ気を遣ってるんですけど、この手のメディアの話は別にどうでもいいので。

でも私はラジオだけ聞いてた方に本当伝えたいのは、石川さんが今までの全ての放送で何も見ないで全部数字を話してるっていうことで。何年に何が出てとか、何年に誰の取材をしてとか。全部頭のウィキペディアなんだなって。

その点で数字は弱いので、実は数字はあんまり言ってないですよ。

何も見ずに話されるんだなっていうのはいつもびっくりしてました。学ばせていただいております。

エンディング

Mobile Tech Lab、そろそろお別れの時間となりました。北さん、石川さん、今日の放送。今日の配信ですかね?いかがでしたか?

今日一番面白かったというか、印象的だったのは、石川さんがテンションめちゃくちゃ高かったっていうのが。

こういう回はたまにやってもいいのかなっていうのと、前回は振り返りでしたけど、今日はなんか石川さんの楽しそうな姿を見れてとても嬉しかったです。

発表会の質疑応答の振る舞いに関してはちょっとね、言いたいことが多々あるのでね。ここはちょっと疲れたなっていう。弓月さんに引っ張られちゃったなっていう。

皆さん多分言いたいことがずっとね、たまってた方も多かったと思いますので、聞いて実は溜飲を下げてる同じジャーナリストの方もいるかもしれません。